高齢者の透析導入者が多くなっていることが話題となっています。現在、透析を受けている方の30%が現役世代、35%が60台歳の方々と74歳までの方、35%が75歳以上の高齢者です。今後、戦後の日本の発展を担った団塊の世代の方々が次々と透析に入っていくことが危惧されています。
腎臓の機能は若いことが100%とすれば、特殊な病気が無くても年々少なくとも1%ずつ低下しています(図:人間の腎臓機能の推移)。これに生活習慣病の高血圧や糖尿病が加われば、年間2%から場合によっては5%以上下がることもあります。下がっていった腎機能が10%以下となったら透析療法か腎臓移植を行わないと死を迎えます。実はありふれた病気なのです。
NPO法人腎臓サポート協会のホームページをご参照ください。ここに、病院で測定した血清クレアチニンの値、年齢、性別を入力して頂ければ、現在のあなたのeGFR(推定腎濾過率≒腎機能)がわかります。
先ほどのeGFRが60以下となると慢性腎臓病ということになります。60以下の方は今後の生活態度如何で将来透析をする可能性が高いということになります。30以下では定期的に医療機関の通院が必要です。15以下となると透析を受ける準備期間となり、8以下で透析療法に導入となります(図:慢性腎臓病の重症度)。
慢性腎臓病のリスクと心疾患のリスクはかなりの項目で重なっています、実はこの8以下となる前に多くの方は心臓病で入院などの加療が必要となってしまい、何事もなく順調に透析までたどり着ける方は25~30%しかいません。
腎機能が悪くなった場合透析を回避することはできるのでしょうか?
残念ながら現在の治療薬で腎臓病に効く薬はないのが実情です。腎臓病による尿毒症症状が出てから、透析なしに生きられる期間は統計的には2週間から長くても5ヵ月です。
親の世代から子の世代への提供で家族間の生体腎移植は日本でも年間1000例以上行われています。死体腎または脳死腎移植は年間150例ほどで増える傾向がありません、腎移植を待っている方は年間17000人ほどいらっしゃいますのでなかなか移植の対象となる可能性は低いように思います。
腹膜透析と血液透析があり、血液透析は施設透析と在宅血液透析に分かれます。腹膜透析はまだ尿が十分にでているうちに行い腹膜透析による腎代替療法はもともとの腎機能の5%程度です、さらに5年間程度で血液透析へ移行する必要があります。血液透析は日本で一番多く行われる透析が週3回、1回4時間透析で腎機能の10%程度を代替します、寿命は平均余命の半分以下しかないのが実態です。施設への通院が必要で送迎を行ってくれる施設は減っており、家族による送迎の負担が家庭に大きく圧し掛かってきます。在宅透析は週3から連日まで時間も4.5時間から8時間以上と選択可能で週3回、1回4時間に比べ寿命の長さも合併症の少なさも比較にならないほどよいのですが、自分で透析の準備を行い針を刺し終了も自分でおこなうため、家族の方の全面バックアップが無い限り70歳以上の高齢者にはあまりお勧めできませし、費用もかかります。
70歳以上の方からはよくこの質問を聞かれます。腎不全死はもともと老衰死の一つでありましたので、徐々に食べられなくなり、痩せていって弱ってお亡くなりなり、それほど苦しまずに逝く場合もありますが、35%は心不全を合併し呼吸困難、30%は尿毒症による悪心・嘔吐、10%が尿毒症による精神・神経異常と楽に逝ける可能性は実は低いというのも実態です。
長生きするだけで腎臓は弱ってくることがおわかりいただけたと思います。現在のご自分の腎臓の機能を一度、是非、気にかけてください。
透析センター長 小林 弘明