はじめに
当院のがんセンターは平成7年4月に全国で初めて分散式がんセンターとして、肝臓、胆嚢、膵臓、肺などの難治性癌に対する高度専門医療を行う事を目的に併設されました。(他に、日立総合病院、土浦協同病院、筑波メディカルセンター病院にも併設)
当初、総合病院に併設されたがんセンターであったため、がん診療に集中できるのか懸念されていました。しかし、高齢化や医療の高度化に伴い、循環器疾患や代謝内分泌疾患、腎機能障害などの合併症を持つがん患者さんに対する総合的な治療が不可欠となっていて、当センターは都道府県がん診療連携拠点病院として、茨城県のがん診療の中心的役割を果たすことが可能な体制となっています。

歴史
1990年 | 9月 | 「茨城県がん専門医療施設整備要綱」に基づき、地域がんセンターの指定 |
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1992年 | 11月 | 全国がん(成人病)センター協議会加盟 |
1995年 | 4月 | 地域がんセンター開設(100床) |
2003年 | 8月 | 地域がん診療拠点病院の指定 |
2006年 | 2月 | 地域がん診療連携拠点病院の指定 |
2008年 | 2月 | 都道府県がん診療連携拠点病院の指定 |
主な設備
⑤核磁気共鳴画像(MRI)撮影装置
磁場と電波を利用して体内の状態を撮影する検査で、体のいろいろな部分の断面像を得ることができます。放射線の被爆がないため、生殖器のある骨盤内の画像検査には特にメリットがあります。
⑦ロボット手術支援装置 ダビンチ
⑥⑦ 現在のところ、当院では前立腺がん、腎がん、膀胱がん、肺がん、縦隔腫瘍、子宮筋腫、子宮体がんの摘出術に使われていて、患者さんに手術の負担が少なく且つ繊細な手術が可能です。令和2年3月までに累計で前立腺292例、腎94件、膀胱9例、縦隔腫瘍7例、肺16例、子宮14件の合計432件を施行しています。今後様々な分野の手術に用いられることが期待されています。
関連するセンター
主な活動
① 茨城県がん診療連携協議会
茨城県内のがん医療の均てん化及びがん診療に携わる病院の連携を円滑に推進するために、「がん診療連携拠点病院の整備に関する指針」により、茨城県がん診療連携協議会が設置されました。
協議会には、以下の6部会と4分科会があり、各分野で活発な活動を行っています。当院は都道府県がん診療連携拠点病院としてこの協議会のまとめ役を行っています。
茨城県がん診療連携協議会会員(令和2年4月1日現在)
茨城県立中央病院 | 都道府県がん診療連携拠点病院 |
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総合病院 土浦協同病院 | 地域がん診療連携拠点病院 |
筑波メディカルセンター病院 | 地域がん診療連携拠点病院 |
株式会社日立製作所日立総合病院 | 地域がん診療連携拠点病院 |
東京医科大学茨城医療センター | 地域がん診療連携拠点病院 |
友愛記念病院 | 地域がん診療連携拠点病院 |
筑波大学附属病院 | 地域がん診療連携拠点病院 |
独立行政法人国立病院機構 水戸医療センター | 地域がん診療連携拠点病院 |
株式会社日立製作所ひたちなか総合病院 | 地域がん診療連携拠点病院 |
医療法人社団善人会 小山記念病院 | 地域がん診療病院 |
茨城県立こども病院 | 茨城県小児がん拠点病院 |
水戸赤十字病院 | 茨城県がん診療指定病院 |
独立行政法人国立病院機構 茨城東病院 | 茨城県がん診療指定病院 |
独立行政法人国立病院機構 霞ヶ浦医療センター | 茨城県がん診療指定病院 |
JAとりで総合医療センター | 茨城県がん診療指定病院 |
水戸済生会総合病院 | 茨城県がん診療指定病院 |
茨城県厚生連総合病院水戸協同病院 | 茨城県がん診療指定病院 |
茨城西南医療センター病院 | 茨城県がん診療指定病院 |
茨城県医師会 | |
茨城県保健福祉部 |
② キャンサーボード
キャンサーボードは複雑な背景や合併症、診断困難な患者さんに対して、院内全体で診療方針を検討する場として設けられました(平成25年9月から開始)。開催実績は以下の通りです。
【令和4年度開催実績】
番号 | 担当診療科 | 症例 | 実施日 | 参加者数 |
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1 | 泌尿器科 | 放射線性出血性膀胱炎・直腸炎の対応について | R4年4月28日 | 25 |
2 | 呼吸器内科 | 肺癌領域における遺伝子変異検索と遺伝子変異陽性例の化学療法について | R4年5月30日 | 25 |
3 | 外科 | 診断に苦慮している腹腔内悪性腫瘍穿破の一例 | R4年6月17日 | 35 |
4 | 腫瘍内科 | 肛門メラノーマの治療戦略 | R4年7月11日 | 25 |
5 | 呼吸器外科 | 4度目の局所再発を来した縦隔原発脂肪肉腫の治療方針について | R4年8月4日 | 24 |
6 | 皮膚科 | HIV 感染症に対する加療を行うも残存した Kaposi 肉腫の 1 例 | R4年9月13日 | 11 |
7 | 血液内科 | AL アミロイドーシスの一例 | R4年10月31日 | 27 |
8 | 産婦人科 | 子宮頸がん放射線治療後に膀胱膣瘻・直腸膣瘻をきたした一例 | R4年11月2日 | 36 |
9 | 消化器外科 | 回腸・膀胱浸潤を程する骨盤内腫瘤の治療について | R4年12月16日 | 18 |
10 | 呼吸器外科 | 胆管がん切除術後の肺腫瘍および鎖骨上窩リンパ節転移の症例について | R5年1月11日 | 23 |
11 | 歯科口腔外科 | 歯科医師はなぜがんの治療を行っているのか? | R5年2月27日 | 24 |
12 | 放射線治療科 | 急速な進行を示す直腸癌の症例 | R5年3月23日 | 27 |
③ 院内がん登録
日本全国のがんの発生や診療状況を調べるために、国立がん研究センターをまとめ役として、全国の拠点病院に院内がん登録が義務付けられています。当院の診療情報室では、都道府県がん診療連携拠点病院として自院のがん登録の質向上だけでなく、県内のがん診療連携拠点病院やがん診療指定病院の実務者へのがん登録に関する研修会の開催や相談などを行っています。平成25年12月には「がん登録等に関する法律」が成立し、さらにがん登録の質の向上が期待されます。下記の表は当院の院内がん登録の実績を示しました。
2019年 | 2020年 | 2021年 | |
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口腔・咽頭 | 54(2.6%) | 48(2.9%) | 62(3.6%) |
食道 | 48(2.4%) | 39(2.3%) | 41(2.4%) |
胃 | 191(9.4%) | 142(8.5%) | 161(9.2%) |
大腸 | 275(13.5%) | 246(14.7%) | 244(14.0%) |
肝臓 | 72(3.5%) | 61(3.6%) | 52(3.0%) |
胆嚢・胆管 | 36(1.8%) | 32(1.9%) | 34(2.0%) |
膵臓 | 82(4.0%) | 72(4.3%) | 74(4.3%) |
喉頭 | 13(0.6%) | 9(0.5%) | 10(0.6%) |
肺 | 321(15.8%) | 231(13.8%) | 261(15.0%) |
骨・軟部 | 7(0.3%) | 6(0.4%) | 7(0.4%) |
皮膚 (黒色腫を含む) | 39(1.9%) | 30(1.8%) | 50(2.9%) |
乳房 | 140(6.9%) | 142(8.5%) | 130(7.5%) |
子宮頸部 | 125(6.1%) | 84(5.0%) | 92(5.3%) |
子宮体部 | 73(3.6%) | 75(4.5%) | 55(3.2%) |
卵巣 | 42(2.1%) | 51(3.0%) | 31(1.8%) |
前立腺 | 167(8.2%) | 102(6.1%) | 120(6.9%) |
膀胱 | 55(2.7%) | 56(3.3%) | 76(4.4%) |
腎・他の尿路 | 68(3.3%) | 74(4.4%) | 50(2.9%) |
脳・中枢神経系 | 36(1.8%) | 23(1.4%) | 11(0.6%) |
甲状腺 | 15(0.7%) | 18(1.1%) | 17(1.0%) |
悪性リンパ腫 | 60(2.9%) | 56(3.3%) | 57(3.3%) |
多発性骨髄腫 | 8(0.4%) | 6(0.4%) | 11(0.6%) |
白血病 | 10(0.5%) | 20(1.2%) | 15(0.9%) |
他の造血器腫瘍 | 25(1.2%) | 13(0.8%) | 10(0.6%) |
その他 | 76(3.7%) | 40(2.4%) | 70(4.0%) |
合計 | 2,038(100.0%) | 1,676(100.0%) | 1,741(100.0%) |
※国立がん研究センターに提出した院内がん登録の確定数の内、症例区分「その他」の登録を除外して掲載しています。
【院内がん登録全国収集データの二次利用について】
④ 当院のがんの5年実測生存率(2012-2015年)
当院は県内唯一の県立総合病院であるとともに、地域がんセンター(県指定)、全国がんセンター協議会加盟施設並びに、都道府県がん診療連携拠点病院として、がんの高度・専門医療を提供しています。このため、当院では地域から合併症の多い患者さんや全身状態の悪い患者さんもすべて断らずに受け入れています。
今回公表された集計結果が、必ずしも「がん治療の質の良否」を反映していないことをご理解のうえ、参考にしていただければ幸いです。
計算の条件について
当院のがんの5年実測生存率は、下記の条件で計算しています。
○院内がん登録
- 2012年~2015年にがんと診断された症例(4カ年分)
○実測生存率
○集計対象
- 癌腫
- 造血器(急性骨髄性白血病、濾胞性リンパ腫、びまん性大細胞性B細胞リンパ腫)
- 当院で初回治療が開始された症例
- ステージ1期~ステージ4期のがん(一部参考値として0期を集計しています)
- 0歳~99歳
用語の説明
○実測生存率
亡くなった原因に関係なく計算された生存率です。がん以外の原因による死亡も含まれます。がんによる死亡のみを集計した「相対生存率」より、生存率が低く算出される傾向があります。
(例)
- 胃がんの患者さんが、がんに関係なく、老衰や他の病気で亡くなった場合も、胃がんの生存率に「死亡」として反映されます。
- 早期の胃がんの他に、末期の膵がんがある患者さんが、膵がんが原因で亡くなった場合、膵がんの生存率の他に、胃がんの生存率にも「死亡」として反映されます。
○総合ステージ
手術を行った場合は術後に判明した全ての情報をもとに判断したステージが用いられ、手術を行っていない、あるいは手術の前に化学療法や放射線治療などの治療が行われた場合は、治療前のステージを用いています。
(例)
- 治療前ステージ2期のがんに対し手術を行い、病理(切除した標本を専門の医師が判定した)結果ステージ4期→ステージ4期を採用
- 治療前ステージ2期のがんに対し、手術前に化学療法を行い、手術の病理の結果ステージ1期→ステージ2期を採用